「知識・実践・智恵」(第25号 2002年2月)

元国税局長の税理士に対し、7億4千万円の所得を隠した疑いが持たれています。住民税を含む脱税額は3億7千万円に及ぶと思われます。また、名門会計事務所とされるアーサーアンダーセンは、エンロンから支払われる週当たり百万ドル(!)の報酬に目が眩(くら)んだようです。

同業者の行ないに、こちらが恥ずかしくなりそうです。多くの国税職員も元国税局長の報道に同じように感じたと思います。同業者に限らず、成人の日の式典で社会人としての自覚を訴えながら翌日に収賄容疑で逮捕された市長がいますが、「欲に目が眩む」という意味では同じ類いでしょう。

元国税局長に関し、平成14年1月11日の読売新聞編集手帳は、概略、次のように書いています。

◆規定通りに納税していくら手元に残るか。小学生にもできる引き算だ◆正々堂々、だれはばからず手にできるお金がある。露見を心配し、あたりをキョロキョロ見回しながら懐に入れるお金がある。どちらを選ぶかの判断は、幼い子供でも誤るまい◆地位も名声もある64歳がそれを誤る。年齢や人生経験を積み重ねることの無力さを見せられたようで、腹立たしいよりも先に、何だか哀(かな)しい◆

そして読売編集氏は、ショーペンハウアーの次の言葉を引用しています。

「富は海水に似ている。飲むほどに渇く」

初めは小さなものであっても、欲望は満たすにつれ、より大きくなります。しかし問題は、欲望を満たすのに正当な手段によるか不当な手段によるか、その選択だと思います。そこを誤ったときから、良心の退化と欲望の肥大化が共に始まり、結局は人生を過(あやま)つことになるのでしょう。

巨額な脱税や粉飾がいつの日か発覚するであろうことは、元国税局長等もプロとして知っていた筈です。しかし実際の自分自身の行動には結び付きませんでした。西大寺の高僧叡尊は「自分の行動に結びつかない知識は意味がない」と言ったそうですが、至言ではありませんか。

知識を実践に活かし、不正な手段によるのではなく、正当な手段によって自分の生きたい人生を生きて行く。そんな智恵を身に付けたいと思います。

(所長 林 光行)

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